国分寺の大銀杏(おおいちょう)
安川通りから、鍛冶橋を渡ってしばらく真っ直ぐ歩いた右側に、医王山国分寺があります。境内には、高さ三十数メートルはありそうな大銀杏がそびえており、樹齢千二百年と云われています。『乳イチョウ』とも呼ばれ、根元から二、三メートルほどのところに乳形にたれさがった幹のコブがあります。樹皮を削って飲むと、お乳が良く出るとの言い伝えも残っていますが、今は天然記念物に指定されています。この大銀杏には、こんな悲話が伝えられています。
- 聖武天皇のむかし、塔の建立を命じられた飛騨の工匠の棟梁は、多くの工匠にそれぞれの仕事を分担させた。ところが一人の若い工匠が、うっかり柱を少し短く切ってしまった。困り果てた棟梁は、どうしたらいいものかと日夜思案にくれていた。その姿を見かねた娘の八重菊が、寸足らずの柱の上に桝組みをのせては…と父に助言した。
助言を聞き入れて、宝塔は無事完成した。桝組みは、柱の寸足らずを補ったということより、みごとな装飾の役割も果たしていて、棟梁の名声は天下に鳴り響きだした。
名声が高まるにつれ、桝組みの思いつきは娘八重菊の助言だと言えなくなり、それが娘の口からもれることを恐れるようになった。
ついに棟梁は、娘八重菊を殺して境内に埋め、墓標としてひそかに銀杏を植えた…。
それが現在の大銀杏だと、言い伝えられています。